生成AIは「答えを出す装置」ではない──専門家が使うべき理由
先日、ある弁護士から、
「生成AIを裁判で使いたいが、どう使えばよいのか相談に乗ってほしい」
という連絡を受けました。
その弁護士は、普段から実務で高い評価を受けている方で、
私がAIを使いこなしていることを知って、相談にこられました。
事前のやりとりと、実際の画面を使ったレクチャーを合わせて数時間程度でしたが、
その弁護士からは、
「これは裁判実務で十分使える」
「今日から実際の事件で試してみる」
という理解が得られました。
生成AIの本当の価値は「思考の試行回数」にある
生成AIというと、
「一発で正解を出してくれる装置」
というイメージを持たれがちですが、
実際の裁判実務で価値があるのはそこではありません。
私が一番価値を感じているのは、
同じ事実関係について、
見方や整理の仕方を何通りも試せることです。
従来であれば、頭の中で整理しながら
ひとつの仮説を文章化し、検討していくしかありませんでした。
しかし生成AIを活用すると、
その前提をいったん脇に置き、
別の整理案や見方を次々に生成させることができます。
写真を入力して「分説原案」を生成させる
ある争点について検討する際、資料や写真がある場合、
従来は人間がそれらを確認しながら
構造や要素を整理して文章化していました。
生成AIを使う場合は、
発想を変えることができます。
- 写真や図をAIに読み込ませる
- まずは裁判所向けに分かりやすい整理案(分説原案)を生成させる
- その原案を前提に、人間が評価・修正する
この段階では、
「その整理が正しいかどうか」を確定する必要はありません。
検討のたたき台が瞬時に手に入ること自体に大きな意味があります。
複数の見方を同時に試す(A案・B案・C案)
生成AIを使うと、
同一対象について、
複数の整理案や見方を一度に試すことができます。
例えば、次のような異なる視点で整理案を生成し、
比較検討することができます:
- A案: ある要素を起点とした整理
- B案: 全体構成を起点とした整理
- C案: 単純化して評価に寄せた整理
どれが「正しい」かを最初に決める必要はありません。
どの見方をすると、どの論点が立ち、どの論点が消えるのかを確認することが重要です。
AIを使えば、こうした視点の切り替えを、
疲弊することなく何度でも試すことができます。
論点整理の補助として使う
複数の整理案が手に入ると、
次にやるべきことが明確になります。
- この整理案だと主要な争点がどう見えるか
- ある見方だと主張としてどの論点が浮かび上がるか
- どの整理案が裁判所に伝わりやすいか
生成AIは、
こうした論点を整理された文章として言語化することが得意です。
ただし、法律的な判断や評価はあくまで人間の役割です。
AIはこちらの意図に沿って思考を展開・文章化する装置
として使うべきです。
余談:相手方の弁護士の動きについて
最近、実際の事件で、
相手方の弁護士が生成AIを使ったと思われる書面を提出してくる
ケースが増えてきているとのことです。
文章は整っていて説得力があるように見えますが、
実際に確認すると次のような問題が散見されるらしいです:
- 前提となる法律理解がズレている
- 引用されている判例が、実際に確認すると異なる内容だった
- 判例番号や条文が正確でない
こうしたケースは、いわゆる生成AIのハルシネーションが原因である可能性が高く、
表面的な文章の整合性に騙されない視点が必要です。
生成AIを活用する際は、
あくまで人間側で正しいかどうかをチェックする姿勢が
欠かせません。
専門家が使うからこそ価値が出る
生成AIは、
「法律を理解していない人の代わりに考えてくれる存在」
ではありません。
しかし、
- どの論点が重要か
- どの見方がより説得力を持つか
- どこを削ぎ落とすべきか
という判断ができる専門家が使えば、
生成AIは非常に強力な思考補助装置になります。
生成AIは、
「仕事を奪う道具」ではなく、
考えられる専門家の仕事を加速させる道具です。



