【大合議事件】 本件特許発明2について その5

大合議事件の本件特許発明2について解説します。

本件特許発明2:特許第5847904号 特許5847904の特許公報はこちら

本件特許発明2については、複数の無効審判が請求されていますが、その中でも、特に重要な無効審判に対する審決取消訴訟が、以下になります。

特許第5847904号:審決取消訴訟 平成30年(行ケ)10048号判決

これらを前提に、説明をすすめます。

まず、本件特許発明2の特許請求の範囲は、以下の通りです。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端においてハンドルに抜け止め固定された支持軸と、
前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え、その回転体により身体に
対して美容的作用を付与するようにした美容器において、
前記回転体は基端側にのみ穴を有し、回転体は、その内部に前記支持軸の先端が位置す
る非貫通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており、
軸受け部材は、前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ、
 前記軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出るとともに、軸受け部材は係止爪
の前記基端側に鍔部を有しており、同係止爪は前記先端側に向かうほど軸受け部材におけ
る回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有し、
前記回転体は内周に前記係止爪に係合可能な段差部を有し、前記段差部は前記係止爪の
前記基端側に係止されるとともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置することを特徴とす
る美容器。
【請求項2】
前記軸受け部材は合成樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の美容器。

代表的な図面を以下に掲載します。

 

 

 

 

 

図4

 

 

 

 

 

図8

この請求項は、ぱっと見ただけでは、ちゃんと書けているじゃないですかと思われると思います。確かに、ちゃんと書けていると思うのですが、図面が、ちょっとおかしくないでしょうか。

斜視図を日常的に書いている方ならお分かりいただけると思いますが、図8の斜視図は少しおかしくないでしょうか。(具体的には、どこがおかしいかの説明は割愛します)

あと、図4ですが、25aが係止する際に変形するという意味で、点線にしているのだと思いますが、断面で見た時、25aが内側に入り込むのであれば、断面には、25aが入り込むためのスペースが図示されているはずではないでしょうか。

まあ、図面としては、ぱっと見、このあたりが、少しどうなのかなあと感じるのが、弁理士としての率直な感想です。

そして、明細書を読み込んでいくと、さらに、大きな問題があることに気付きます。

なんども、繰り返しこのブログでも説明していますが、発明というのは、課題があって、その課題を解決するための手段として、発明が成立しています。

そして、この特許発明2の課題は、以下の通りです。

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
 前記特許文献1においては、回転体を支持するための軸等の支持構造は開示されていない。この発明の目的は、回転体を支持軸に対して回転可能に支持することができる美容器を提供することにある。

すなわち、回転体を支持軸に対して、回転可能に支持することが課題なわけです。ですから、特許発明2は、回転体を支持できていなければ発明としては課題を解決できていないということになります。

常に弁理士として意識すべきは、技術としての発明を理解するということです。

本件特許発明2の請求項においても、弾性変形可能な係止爪と、段差部と、鍔部との位置関係で、回転体を支持軸に支持しているかのような特定がなされています。

しかし、よくよく考えてみたら、係止爪の斜面部25aや、段差部、鍔部という軸受けの基端部分だけで、回転体がしっかり支持されるのでしょうか?この疑問を持つのが、弁理士としては、絶対的に必要なセンスなのです。

ちょっと分かりにくいかもしれませんので、下記にその意味を図示します。

 

 

 

 

 

係止爪の斜面部25aと、段差部、鍔部だけの軸受け(赤い部分)で、回転体を支持軸(青い部分)に支持しようとした場合、もし、支持軸の先端にある黄色い部分(キャップ材29)がなかったらどうなるでしょうか?

その場合、先端部分が上下左右にふらついた状態で支持されることになるのではないかというのは、容易に想像できることだと思います。

そうすると、本件特許発明2の請求項2に記載されている発明特定事項だけで、「回転体を支持軸に対して回転可能に支持する」という発明の課題が解決できているということになるのでしょうか。

技術的に突き詰めて考えると、そういう問題点が存在することに気付くはずです。ただし、私自身、この問題点に、すぐに気づいたわけではありませんので、偉そうなことを言うつもりはありません。無効審判の手続きを経て、引用発明との対比を行う中で、やっと、この問題点に気付いたに過ぎません。

そして、その無効審判というのが、冒頭で述べた以下の無効審判です。

特許第5847904号:審決取消訴訟 平成30年(行ケ)10048号判決

この審決取消訴訟での判決文は、非常に興味深い展開になっています。重要な箇所を以下に抜粋しておきます。

判決9~10頁(原告(侵害訴訟の一審被告)の主張)

『イ キャップ材の扱い
本件明細書の記載によれば,キャップ材29が支持軸20の突出端部側に設けら
れ,これにより,支持軸の上下へのがたつきが防止されている。
もっとも,本件明細書にはこのような記載があるものの,本件発明1に係る特許
請求の範囲の記載には,「キャップ材」は発明特定事項として存在しない。また,
本件発明1では,「鍔部」及び「係止爪」だけで「回転体」を回転可能に支持して
いることから,支持軸の突出端部が上下にぶれることは明らかであるし,本件明細
書上,本件発明の効果について,「回転体を支持軸に対して回転可能に支持するこ
とができる」との記載はあるものの,がたつき防止の効果は記載されていない。
したがって,本件発明1は,その構成に「キャップ材」を含まず,がたつき防止
の効果を発揮することはない。』

※本件発明1というのは、侵害訴訟の方の本件特許発明2です。

判決9~10頁(被告(侵害訴訟の一審原告)の主張)
キャップ材は,本件明細書【0015】の記載から回転体
  27を構成するものと理解されることから明示されてい
  ないものの,本件発明1の発明特定事項としてこれに
  相当するものが存在しないとはいえない。

なお、一審原告は、審決取消訴訟の準備書面の中で、

・前記各回転27は,合成樹脂よりなる芯材28と,その芯
材28の先端内周に嵌着された合成樹脂よりなるキャッ
プ材29と,芯材28及びキャップ材29の外周に被覆成形
された合成樹脂よりなる外被材30とより構成される。
上記のとおり本件特許明細書には,回転体27が芯材28
とキャップ材29と外皮材30とより構成されると記載さ
れており,「キャップ材29」は,回転体27を構成する。

という趣旨の主張を行っています。

このような双方の主張に対して、審決取消訴訟で、知財高裁は、以下のように判断しました。

判決30頁

『b また,原告は,上記主張の前提として,「前記支持軸の先端側」とは,「鍔
部」及び「係止爪」から「支持軸」の「先端」までの範囲を指し,また,本件発明
1はその構成に「キャップ材」を含まず,がたつき防止の効果を発揮することはな
い,などとも主張する。
しかし,本件発明1は,「支持軸の先端側」について,「基端においてハンドル
に抜け止め固定された支持軸と,前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転
体とを備え」と特定するところ,この記載から,ハンドルに抜け止め固定される支
持軸の基端に対し,回転体を支持する部分を先端側としていることは明らかであっ
て,原告の主張する範囲と解することはできない。また,本件明細書には,キャッ
プ材29が,がたつきを防止するために必須の構成である旨の記載はない。そもそ
も,「前記各回転体27は,合成樹脂よりなる芯材28と,その芯材28の先端内
周に嵌着された合成樹脂よりなるキャップ材29と,芯材28及びキャップ材29
の外周に被覆成形された合成樹脂よりなる外被材30とより構成されている。」
(【0015】)との記載から,キャップ材29は,本件発明1の「回転体」の一
部を構成するものと理解される。
c 以上より,この点に関する原告の主張は採用できない。』

このように、知財高裁は、キャップ材29は、本件発明1(=本件特許発明2)の「回転体」の一部を構成すると理解されると言い切ってしまっています。

<その他の論点>

なお、本件特許発明2には、他に、論点が隠されています。

1.「前記軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出る」とあるため、係止爪というのは、軸受け部材から突き出ている斜面部25aを指すはずであり、この「弾性変形可能な」という文言は、斜面部25a自体が変形することを指しているのか?

2.上記1との関係で、審決取消訴訟の判決25頁では、以下の記載があります。

『そして,図8から,「長方形状の部位及び係止爪25aの斜面部の側面と見られ
る部位」の存在を見て取ることができる。ここで,係止爪25aの側方に隙間が存
在しなければ,当該側面が図示されることはない。このため,当業者であれば,上
記部位及び係止爪25aの基端側と鍔部との間に存在する凹状の部位をもって,係
止爪25aが弾性変形する際のクリアランスとなり,係止爪25aが軸受け部材の
先端側を付け根として,全体として内周方向に曲がるよう変形するように構成され
ているものと理解できる。
また,このように,係止爪25aは軸受け部材の先端側を付け根として全体とし
て内周方向に曲がるよう変形するものであることから,係止爪25aの内周面方向
には,当該変形を許容するクリアランスが存在することは明らかである。
そうすると,回転体27を軸受け部材25に対して嵌挿する際には,上記各クリ
アランスが存在することによって,軸受け部材25の係止爪25aが,軸受け部材
の先端側を付け根として,全体として内周方向に曲がるよう変形することにより段
差部28aを乗り越え,元に戻ることで段差部28aに係止爪25aの端部が係止
されることは,当業者にとって容易に理解できる。
よって,本件明細書において,本件発明1の係止爪がどのような構造で軸受け部
材25の中に入り込み,弾性変形して,段差部28aを乗り越えて元に戻るもので
あるのかは,開示されているといえる。』

すなわち、長方形状の部位が内側に撓むことで、係止爪25aが内周方向に全体として曲がって変形して係止が実現されるというように読める記載がなされています。

そうすると、長方形状の部位が存在しない被告製品(被告製品の構造は次回紹介します)が、技術的範囲に属するのかという争点があります。

<法的な論点>

話が、複雑になるので、上記2点のその他の争点は、ここでは、措くこととします。

ここでは、あくまでも、キャップ材29に関する一審原告の主張と審決取消訴訟判決での裁判所の判断との関係で、どうなるのか、それが、大きな法律問題なのではないかと考えています。

あくまでも、一見解であり、完全に的外れになっている可能性もありますが、あえて、ここで、表明しておきます。

まず、特許請求の範囲には、「回転体」としか記載されていません。キャップ材29は、特許請求の範囲の発明特定事項には含まれていません。

一方、無効審判~審決取消訴訟において、特許権者は、「回転体」には、「キャップ材29」が含まれると主張し、その主張を裁判所も採用して、特許が維持されています。

無効審判請求人は、「回転体」には、「キャップ材29」は含まれないと主張しているにも関わらずです!

特許発明の技術的範囲というのは、特許法70条1項2項によって、特許請求の範囲の記載と、明細書及び図面の記載に基づいて、画定されると法律には記載されています。

どこにも、包袋禁反言に関しては、法律には記載がされていないのです。

包袋禁反言というのは、特許権者が特許をとるために、特許庁などに表明した見解が特許発明の技術的範囲に影響するのかという法律理論です。

ただ、実務的には、包袋禁反言によって、技術的範囲が画定されるというのは、あたり前の事項ですので、当然だと思っていました。しかし、よくよく考えると、特許権者が発明を減縮する発言をしただけで、包袋禁反言が働くのか、特許庁や裁判所が特許権者の意見を認めた場合にだけ包袋禁反言が働くのか、かなり、難しい論点になっていることが分かります。

特許法概説という基本書で勉強しているような昔からの弁理士から言わせれば、当然、包袋禁反言が働くから、意見書や無効審判などで、余計なことを言えば、それで権利は狭くなって終わりだよと、先輩から、脈々と言われてきていましたので、当然、なことだと思っていました。

でも、確かに、よくよく考えたら、意見書や無効審判の資料などが閲覧できるとは言え、公示機能として機能しているのかどうかという問題もあるわけですから、包袋禁反言とのからみで、発明の要旨認定及び技術的範囲の関係を法的に明確に整理しておくことは、重要だと思われます。

という論点が含まれているので、本件は、大合議事件になったのだと、考えているのですが、間違っていたら、大恥ですけど、ご容赦ください。

次回は、被告製品を紹介します。

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