【大合議事件】 本件特許発明1について その3

大合議事件については、事件としては、多数の争点が含まれているのですが、主には、発明の要旨の認定と技術的範囲との関係、それに、包袋禁反言が関係していきます。

順を追って、本件特許発明の内容から見ていくことにします。

<本件特許発明1の特許請求の範囲(訂正の請求後)>

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸の開き角度を65~80度、一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし、
前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、
ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたことを特徴とする美容器。

(本件特許発明1の明細書及び図面の記載)

【0019】
図5に示すように、一対のボール17の開き角度すなわち一対のボール支持軸15の開き角度βは、ボール17の往復動作により肌20に対する押圧効果と摘み上げ効果を良好に発現させるために、好ましくは50~110度、さらに好ましくは50~90度、特に好ましくは65~80度に設定される。この開き角度βが50度を下回る場合には、肌20に対する摘み上げ効果が強く作用し過ぎる傾向があって好ましくない。その一方、開き角度βが110度を上回る場合には、ボール17間に位置する肌20を摘み上げることが難しくなって好ましくない。
【0021】
さらに、ボール17の外周面間の間隔Dは、特に肌20の摘み上げを適切に行うために、好ましくは8~25mm、さらに好ましくは9~15mm、特に好ましくは10~13mmである。このボール17の外周面間の間隔Dが8mmに満たないときには、ボール17間に位置する肌20に対して摘み上げ効果が強く作用し過ぎて好ましくない。一方、ボール17の外周面間の間隔Dが25mmを超えるときには、ボール17間に位置する肌20を摘み上げることが難しくなって好ましくない。

【0030】
よって、本実施形態の美容器10によれば、肌20に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌20に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好であるという効果を発揮することができる。
(2)ボール17の軸線yの側方投影角度αが好ましくは93~100度、さらに好ましくは95~99度であることにより、美容器10の操作性及びマッサージ効果等の美容効果を一層向上させることができる。
(3)一対のボール17の開き角度βが好ましくは50~110度、さらに好ましくは50~90度、特に好ましくは65~80度であることにより、美容器10の押圧効果と摘み上げ効果を格段に向上させることができる。
(4)ボール17の直径Lが好ましくは15~60mm、さらに好ましくは32~55mm、特に好ましくは38~45mmであることにより、美容器10を顔や腕に対して好適に適用することができ、マッサージ効果や操作性を高めることができる。
(5)ボール17の外周面間の間隔Dを好ましくは8~25mm、さらに好ましくは9~15mm、特に好ましくは10~13mmであることにより、所望の肌20部位に適切な押圧効果を得ることができると同時に、肌20の摘み上げを適度な強さで心地よく行うことができる。

 

 

 

 

 

【0050】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・  図8及び図9に示すように、前記ボール17の形状を、ボール17の外周面のハンドル11側の曲率がボール支持軸15の先端側の曲率よりも大きくなるようにバルーン状に形成することもできる。このように構成した場合には、曲率の小さな部分で肌を摘み上げ、曲率の大きな部分で摘み上げ状態を保持できるため、ボール17を復動させたときの肌20の摘み上げ効果を向上させることができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無効審判「無効2016-800086」において、当初のクレームに対して、審決の予告がなされ、特許権者が、上記のように、訂正の請求を行い、特許請求の範囲を狭くして、特許が維持されました。

審決及び審決取消訴訟においても、訂正の請求を認めると判断していますが、そもそも、段落0050及び図8、9に示されたバルーン状の形状の場合に、外周面間の間隔をどこと定義づけるのかが、本件明細書中には、一切記載も示唆もされていません。

そのため、訂正要件のところで、本来は議論すべきではあると思うのですが、審決及び審決取消訴訟においても、訂正要件を認めてしまっています・・・。この点は、どこか、頭の片隅に入れておいてください。

さて、この無効審判事件において、審決取消訴訟で、知財高裁は、どのように判示したのか、重要な箇所を以下に記載します。

<特許第5356625号:審決取消訴訟 平成29年(行ケ)10201号判決>

37~39頁

『ア 「ボール」の概念に矛盾ないしそごがあるとの主張について
原告は,本件審決につき,本件訂正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
の段階での「ボール」の概念と相違点の判断の段階での同概念との間に矛盾ないし
そごが存在するところ,本件訂正発明の「ボール」が真円状以外の形状を含む限り,
その認定に係る有利な効果を発揮することはないなどと主張する。
しかし,原告主張に係る矛盾ないしそごが存在するとは認められない。
すなわち,本件訂正明細書【0009】,【0025】及び【0029】には,
前記⑴認定のとおりの記載があるところ,本件審決は,これらの記載を根拠として
示しつつも,「肌に接触するローラを(真円状の)ボールで構成すること,特に,
肌に接触する部分をボールで構成すること。これにより,ボールは肌に局部接触し
て,押圧力や摘み上げ力を集中的に作用することができる」(本件審決書(写し)60頁6行目~9行目),「肌に接触するローラを(真円状の)ボールで構成する
こと,特に,肌に接触する部分をボールで構成すること。これにより,ボールは肌
に局部接触して,肌に対するボールの動きをスムーズにでき,移動方向の自由度を
高めることができる」(本件審決書(写し)61頁5行目~8行目)というように,
本件訂正発明の課題解決手段を「(真円状の)ボールで構成すること,特に,肌に
接触する部分をボールで構成すること。」と表現した上で,その作用効果を認定し
ている。
また,【0050】には,「前記ボール17の形状を,ボール17の外周面のハ
ンドル11側の曲率がボール支持軸15の先端側の曲率よりも大きくなるようにバ
ルーン状に形成することもできる」こと,「このように構成した場合には,曲率の
小さな部分で肌を摘み上げ,曲率の大きな部分で摘み上げ状態を保持できるため,
ボール17を復動させたときの肌20の摘み上げ効果を向上させることができる」
ことが記載されている。当該記載は,バルーン状のボールにおいて,支持軸の先端
側は真円状のボールと同じ半球状であることから(図8及び9),真円状のボール
の場合と同様に肌を摘み上げることができ,しかも,その場合より長くその摘み上
げ状態を保持できること,すなわち,マッサージ効果及び操作性につき,真円状の
ボールと同等かそれ以上の作用効果が得られることを示すものと理解される。そし
て,断面楕円形状及び断面長円形状のボールも,真円状のボールと比較して,支持
軸の先端側の回転体の曲率が中央部分の曲率より小さいことは明らかであるから,
【0050】記載の上記作用効果を得られるものということができる。「前記ボー
ル17の形状を,断面楕円形状,断面長円形状等に適宜変更することも可能である」
(【0052】)とは,この旨を記載したものと理解される。そうすると,本件訂
正明細書には,真円状以外の形状である本件変形例の「ボール」によっても,真円
状のボールと同じく,「従来の筒状のローラ」と比較すると,【0009】,【0
025】及び【0029】記載の作用効果を有することが示されているというべき
である。

以上の点を踏まえると,本件審決は,本件訂正明細書の記載と異なり,殊更に
「真円状の」に括弧を付して「(真円状の)ボール」と表現することにより,本件
訂正発明における「ボール」は「真円状」には限らないことを示しているものと理
解し得る。これに加え,「特に,肌に接触する部分をボールで構成すること」とは,
肌に接触しない部分はボールの形状で構成される必要はないことを意味することを
も考慮すると,本件審決は,本件訂正発明における「ボール」につき,「真円状」
に限らず,本件変形例を含むことを前提として進歩性の判断を行ったものというこ
とができる。したがって,本件審決には,原告主張に係る矛盾ないしそごは存在し
ない。
よって,この点に関する原告の主張は採用し得ない。』

<争点は?>

ボールと表現しただけでは、すべてのボールで有利な効果が発揮できるか否か、本件明細書には記載されていないわけですから、原告(侵害訴訟の被告)は、「本件訂正発明の「ボール」が真円状以外の形状を含む限り,その認定に係る有利な効果を発揮することはない」と主張し、相違点の個々の数値(開き角度や外周面間の間隔)については、設計事項として、それぞれ独立して、個々に、組み合わせて、進歩性の有無を判断すべきであると主張していたわけです。

しかし、知財高裁は、「バルーン状のボールにおいて,支持軸の先端側は真円状のボールと同じ半球状であることから(図8及び9),真円状のボールの場合と同様に肌を摘み上げることができ,しかも,その場合より長くその摘み上げ状態を保持できること,すなわち,マッサージ効果及び操作性につき,真円状のボールと同等かそれ以上の作用効果が得られることを示すものと理解される。」として、有利な効果を認め、結果、進歩性を有するとの判断を下していきます。

そうすると、本件特許発明1のボールとは、何なのか?というところを突き詰めた場合、真円状(断面が真円という意味)のボール(=球体ということ)と同様に、支持軸の先端側に半球状の形態を有するバルーン状のボールも、本件特許発明1のボールに含まれるとして、発明の要旨が認定された上で、進歩性が是認されているわけです。

すなわち、特許要件の有無を判断する段階においての発明の要旨の認定において、ボールとは、少なくとも、半球状の形態を有するものであると認定されてしまったわけです。

ただし、ここで、疑問が生じるのは、半球状を先端側に有するバルーン状のボールについて、外周面間の間隔がどこであるか定義付けることが、本件明細書においてはできていないですし、審決取消訴訟の判決でも、その点については、触れられておりません。

<まとめ>

以上より、被告製品が現れたときに、特許発明の技術的範囲をどう考えるのかという段階になって、

「ボール」って、どのような形状を含むのか?

「ボールの外周面間の間隔」って、どこを測定するのか?

という問題が生じることとなってしまったわけです。

そこで、次回は、被告製品の構造を見てくことにします。

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